新型コロナウイルスの世界的流行により、エンタメ業界は大きな打撃を被った。音楽シーンでは予定されていたライブが軒並み中止・延期となり、映画館では新作の上映がストップ、一時は営業停止にまで追い込まれた。ぴあ総研の推計(5月末時点)によると、新型コロナの影響により売り上げがゼロ、もしくは減少した公演・試合の総数は今年2月から来年1月までに43万本超。現在は最悪の状態を脱し、人の波も戻りつつあるが、冬に向けてまだまだ油断のできない状況が続いている。
一方で有料ライブ配信という新たな文化も広がり始めた。コロナ禍で観客を入れたイベント開催が難しくなると、主催者側はオンラインにその活路を見出し、ストリーミング+、PIA LIVE STREAM、LINE LIVE-VIEWINGなど、さまざまな配信プラットフォームが誕生。新たな収益モデルとして先行きの見えない世界に一筋の光をもたらした。
そんな中、いち早く有料ライブ配信事業を始めたのがZAIKOだ。電子チケット販売を主としていたZAIKOでは競合他社に先駆け、3月5日にライブ配信サービスの開始を発表。3月13日にceroによる初の有料配信ライブを実施し、ファンや業界から大きな注目を集めた。現在(2020年9月末時点)までに2500本以上のライブ配信を行うなど、同事業のパイオニア的な存在として圧倒的な実績を持つ同社。ZAIKOデジタルマーケティング担当の大野晃裕氏に、ZAIKOの成り立ちや今後の展望など話を聞いた-。(取材/文:白井良資)
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大野晃裕 ZAIKOデジタルマーケティング担当
 

初の有料配信ライブは発表から1週間で

――ZAIKOが電子チケットの取り扱いを始めた経緯を教えてください。
 
大野 もともとZAIKOの前身となる会社で「iFLYER」という音楽関係のポータルサイトを運営していて、主にライブやフェス、クラブミュージックの情報発信を行っていました。そこからプログラマーでもあった社長のマレック・ナサ―が、特にクラブシーンの人たちに向けて電子チケット販売のプラットフォームを開発して「iFLYER」内でローンチしたのが最初の形です。そこから事業化の目処が立ち、2019年1月にZAIKOを立ち上げることになりました。
 
――ZAIKOでは今年3月にライブ配信事業をスタートさせましたが、これはどういうきっかけだったのでしょうか?
 
大野 ライブ配信事業に関しては以前から5Gの普及で需要はあるなと思っていたんですけど、あくまで構想レベルでした。それが2月中旬頃からコロナの影響で徐々にイベントが中止になってきて、何かできないかと本格的に開発に着手したのがきっかけです。システム的にはもともとあったチケット販売機能にライブ映像を配信できるようなカスタムを加えるという形で完成させました。当時は主催者さん側もどうしたらいいのか困っていましたし、僕たちもチケットが商材なので危機感を感じていましたね。
 
――当時を振り返ると3月5日にライブ配信機能の実装を発表して、約1週間後の13日にceroによる初の有料配信ライブを実施。あらためて、そのスピード感に驚かされます。
 
大野 サービスを発表した当日に、以前から付き合いのあったカクバリズムさん(ceroのマネジメント事務所)から連絡を頂き、ライブをやろうという話になりました。ceroの公演日は3月13日に決まっていたのでその時点で開催まで残り1週間。その期間に先方の希望する仕様や設定に関してフィードバックをもらいながらシステムのブラッシュアップを重ね、ライブ配信の実施を告知したのが公演の2日前というスピード感でした。あの時はエンジニア陣が毎日徹夜で頑張ってくれましたね。
 
――それまでは無料が当たり前だったライブ配信で、前例のない有料配信。不安はありませんでしたか?
 
大野 技術面の不安というよりも、有料配信という形式が今後浸透していくのか、また有料でやることに関してネガティブな意見があるかもしれないな…ということは覚悟していました。ただ、実際にやってみると思っていた以上に好意的に受け止めてもらえて安心しましたね。告知期間は2日間しかなかったんですけど、チケット販売数もぐんぐん伸びて、かつて見たことないぐらいの動き方だったので正直驚きました。視聴者の大半はceroファンの方々だったんですけど、SNSを見ると音楽業界やテック系の会社の人たちからのリアクションも良くて手応えを感じましたね。
 

ZAIKOが選ばれるポイント

――ZAIKOの料金システムはどのようになっていますか?
 
大野 基本的にはチケット収益を一旦お預かりして、翌月末に主催者にお支払いする形ですね。手数料に関しては、それまでのプレイガイドでは中身が不透明な部分があったと思うのですが、ZAIKOではイベントの大小関係なく一律固定にしています。主に2パターンあって、1000円以上のチケットの場合、主催者側のシステム利用料は1枚につき税抜きで10%+50円(主催者負担の場合)。ざっくりですが1000円のチケットだとおよそ150円がZAIKOの収益で、残りが主催者側の利益となります。1000円以下のチケットの場合は一律150円(税抜き)。5月以降は、イベント主催者にかかるチケット販売手数料を0%に設定し、従来ではチケット料金に含まれていた販売手数料を購入者負担にするかどうか選択できるオプションも実装しているので、そうしたわかりやすさと選択肢がある点も売りになっています。
 
――今ではさまざまな配信プラットフォームが誕生していますが、その中でZAIKOのPRポイントはどこになりますか?
 
大野 まずは実績。これに関しては断トツだと思いますね。ZAIKOが3月から行ってきたライブ配信数は2500本を超えています。他の配信プラットフォームはメジャーアーティスト案件が中心だと思うんですけど、うちは地下アイドルからインディー系のアーティストまで「やりません」ということはほぼないので。もちろん音楽イベントが主体ではあるんですが、演劇、お笑い、セミナー、スポーツ、幅広いコンテンツに対応していることがZAIKOの強みですね。
 
――システム面ではどうですか?
 
大野 主催者さん側の目線で言うと配信やチケット設定の自由度の高さです。例えばチケットの販売期間や販売手数料、アーカイブの有無、投げ銭の設定、これらを主催者が自身のブランドに合わせて細かに設定できる。他にもZAIKOではライブ後の個人情報を除くすべてのユーザーデータを公開しているので、視聴者の趣向や属性、自分たちのファンがどういう層なのか掴みやすいという利点があります。得られたデータは次回以降のマーケティングに役立てることができますし、CRMツールを使って次回のイベント告知を効率的に行うことも可能です。これらはZAIKOを使う上でのチケット販売収益以外での価値を感じてもらえるポイントだと思っています。
 
――海外ユーザーへの目配せもしっかりしている印象ですが、こちらはいかがでしょう?
 
大野 おっしゃる通り、ZAIKOは多言語対応機能や、海外のクレジットカードにも対応しているので、世界中の人々にチケットを届けることができます。海外向けに展開したい主催者さんはリスクなくコンテンツを届けられるので、ここもかなり大きなポイントですね。イベントによっては海外のチケット購入者が20%を占めるケースもあったので、今後海外のユーザーにどうチケットを販売していくかも力を入れていきたい部分です。
 
《3月のライブ配信事業開始以降、しばらくはVimeoやYouTubeなどの外部動画配信サービスを利用してきたZAIKOだが、6月8日に完全自社開発のオリジナル動画配信サービス「ZAIKO LIVE」をローンチ。これによりイベント主催者は外部動画配信サービスに対しての費用を払うことなく、完全無料で世界中のユーザーに対してコンテンツの販売・配信を行えるようになった》
 
――「ZAIKO LIVE」はどのようなものでしょうか?
 
大野 基本的なスペックでいうと、これまでZAIKOが利用していた外部動画サービスと同等の高い能力を持っています。どこが他と違うかというと、こちらも自由度の高さですね。例えば同じ時間帯での同時配信数の上限がなかったり、これまでにあった色々な制約がクリアになっているのが特徴です。
 
――こちらの開発自体はいつ頃から進めていたのでしょう?
 
大野 開発でいうと4月以降です。それまでもVimeoやYouTubeなどを使用しながら、ゆくゆくは自分たちのオリジナルのものでやっていくべきだよねという認識はありました。うちは社内エンジニアが本当に優秀で、(エンジニアの)トップをやっている人間はもともとアメリカのフェイスブックに勤めていたり、インスタグラムのショッピング機能の開発に携わってきた社員がいたりと、開発能力でいうとズバ抜けていると思います。主催者側からは「こういう機能が欲しい!」という要望を定期的に頂きますが、頂いたご要望に関してはプロダクトチームで揉んで、どれを順番に開発していくか常に精査しているので、これからもどんどん自由度を高めていきたいですね。
 

中国国内へのアプローチ

――対海外ということでいうと、4月には中国の音楽配信サービス「QQ音楽」を運営するテンセント・ミュージックとの業務提携を発表されていますね。
 
友沢(営業本部長) 私は今年2月にZAIKOに入社したんですけど、以前北京で2年ほどアーティストマネージャーをやっていた経験があったので、〝中国でのライブ配信事業の開拓に携わりたい〟という思いが自分の中ではっきりとありました。なので、入社してすぐに「QQ音楽」との提携を提案して話を進めていきました。
 
――中国の配信事情を教えていただけますか?
 
友沢 中国では4~5年前からライブ配信が盛んになっているのですが、どんなに有名なアーティストでも無料配信が基本でした。正直、有料配信という文化はまだ根付いていなくて、これまで自国以外のアーティストのライブ配信もほとんど行われてこなかったので、逆にすごくチャレンジしがいがある国だと思っていますね。
 
――中国のユーザーに向けて配信コンテンツを届けるにあたって、主催者側が留意すべき点はなんですか?
 
友沢 一番の大きな違いは物価です。日本の視聴チケット料金は、一般的な中国人の感覚からするととても高い。中国マーケットに興味を持って下さる主催者さんはたくさんいるんですが、最初に苦戦するのがそこです。「QQ音楽」は8億人のユーザーを抱えていますが、より大きなパイを取りに行くなら、そこにチューニングを合わせていく必要があります。
 
――料金的なギャップでいうと、どれぐらいの差があるのでしょうか?
 
友沢 3分の1ぐらいですね。1~2カ月ほど前に中国国内だけでもファンが何億人もいるような1番人気のアイドルグループが有料配信ライブを行ったんですけど、その時の(特典などが付随しない)1番安いチケットで30元。日本円にすると500円ぐらいです。日本では有名アーティストになるほど単価が高くなる傾向がありますが、中国ではそれはありません。一方で中国でも有料にもっていこうという流れはあるので、そこを今後うまく開拓していって、国内アーティストの中国進出の手助けをしていきたいですね。
 

印象的だった配信

――これまで国内で印象に残っている配信はありますか?
 
大野 たくさんあるんですけど、例えば5月に行ったでんぱ組.incさんのライブですね。マルチアングルを使った演出だったり、コンテンツ自体も面白くて、最初にTwitterトレンド1位をとったライブなので印象に残っています。他にも歌手の清春さんは5月以降、毎月ZAIKOで配信ライブを開催されているんですが、映画にできるくらいのクオリティで配信されているので毎度驚かされています。逆の例でいうと、7月に実施したあるアーティストさんの配信ライブでは、急激なアクセスによりトラブルを起こし迷惑をかけてしまったことがありました。
 
――原因はなんだったのでしょうか?
 
大野 サーバー的には数十万人単位の視聴まで耐えられるようになっているのですが、その時はチケット購入のアクセス負担が原因でした。チケット購入時のアクセスはサーバーへの負担が特に大きいんですけど、それが何百何千件と一気にきたことで、本来作動するべきではないセキュリティシステムが作動してしまい、一時的にチケットの決済の処理速度が遅くなってしまいました。その時すでに視聴していた多くのユーザーは問題なくライブを観れていたんですが、最初の15分くらいは一部ユーザーにご迷惑をおかけしてしまいました。当時のトラブルに関しては結構細かく検証・対処して、今では同じことが起こらないように解決できています。
 
――配信時のチェック体制はどのようになっているのですか?
 
大野 基本的には配信の管理に特化したチームがあり、当日の対応はもちろん、配信設定のミスがないかどうかというところからチェックを行っています。システム設定も最終的には手作業なので、どうしてもミスが発生してしまう時もあるんですけど、そういうチームがあるので安心して仕事ができています。7月のトラブルの時は、そのアーティストさんの人柄なのか、お叱りというよりは、「アーカイブでまた見るよ!」とかファンの方々に逆に励ましの声を頂くような形で本当に助けられましたね。
 

業界に貢献していきたい

――先日、マーケット調査データを公開(https://zaiko.io/press/34/zaikoresearch)されましたが、こちらの狙いは?

 
大野 ZAIKOは3月からライブ配信を行っていますが、日本ではそれまで紙のチケットが主流だったのが、電子チケットが主流になりつつあったり、コロナによってある種、劇的にスマートに変化した部分ってあると思うんです。当然、それに伴ってユーザーの行動や購買動機も変わってきているので、実績あるZAIKOだからこそ持ち得ているデータを公開したい、お世話になっている業界の人たちに貢献したいという思いが第一にありました。ユーザーデータは非常に価値の高いものだと思うので、それを活用して反映することができるZAIKOの強みをアピールしたいというのもありますね。
 
――人気の視聴ジャンルや傾向に関してはどう捉えていますか?
 
大野 音楽でいうとアイドルがすごく強いですね。有料のライブ配信はファンとアーティストの距離感が近いほど相性が良いなと思っていて、その点で言うとやっぱりアイドルさんとバンドが強いです。逆にいま伸びているのはセミナーとか出版社さんの出版記念イベント、映画の試写会などの発表ごと。やっぱり主催者側とお客さんとの関係性が出来上がっているところは視聴チケットもしっかり売れていますし、今後も期待できると思います。
 
――8月には100万米ドル(約1億円)の資金調達を発表されました。これからリアルイベントの需要回復も予想されますが、今後配信サービスの向上や新技術の開発などについて具体的に考えていることはありますか?
 
大野 あるんですけど…中々言えない(笑)。ただ将来的には「ライブ+配信」という形が新たなスタンダードになっていくと思っているので、リアル現場でスマホなどのデバイスをどのように活かしていけるかということは考えていたりします。
 
――最後に、現在までの成長率をどのように捉えていますか?
 
大野 おかげさまで会員登録者数も順調に上がってきていますし、(コロナ禍で)ライブ配信を通して収益をあげ、それを主催者さんたちに還元出来てきたりと、これまでのライブ・エンタメ業界にはなかった〝新たな収益モデルを築き上げて来れた〟というのは誇りに思っています。今回のことで生まれたこの収益モデルというのは、今後の世界でも継続していけるものであると確信していますし、今後は5Gが実装されていく中で、パートナー企業との連携もより重要になってくると思います。常に新たな可能性を模索しながら色々なパートナーさんやクライアントとライブ・エンタメの可能性を広げていきたいと考えています。
 
(了) 
 
※この記事の取材は9月下旬に行いました。
 
 

Thursday, October 29, 2020