イベントのデジタル化で潜在需要発掘 ライブ配信企業最高執行責任者に聞くアフターコロナ

新型コロナウイルスの感染拡大は、エンターテインメントの世界を大きく変えた。その一つが、音楽をはじめとするライブイベントのインターネット配信の隆盛だ。配信は、会場が遠い人、子供がいてライブ会場に行けない人などの需要を掘り起こし、世界のファンとつながることも可能に。電子チケット販売プラットフォームを提供し、これまでに5000本以上の有料ライブ配信を実施している「ZAIKO」の最高執行責任者(COO)、ローレン・ローズ・コーカー氏に、現在の状況やアフターコロナでの展望を聞いた。(文化部 森本昌彦)
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リアルでは不可能な体験

「いろいろなイベントがコロナでキャンセルになって、会社も取引先も困っていた。それで有料配信を提案して開催すると、思った以上に売れて次々に問い合わせが入ってきました」
政府が昨年2月に大規模イベントの開催自粛を呼びかけた直後の3月に、有料配信に踏み切った経緯について、ローレン氏はこう説明する。

同社のサービスを使ってこれまでに行われた有料ライブ配信は5000本超、チケットに換算すると約150万枚以上に上る。手がけた配信は音楽にとどまらず、お笑い芸人のライブや落語、演劇、出版イベント、スポーツまでジャンルは広い。

感染防止の観点から配信へのシフトが強まった感はあるが、配信はライブイベントの新たな可能性を示したという。ローレン氏は「小さい子供がいてライブ会場に行けない人や、自分の住む場所に好きなアーティストが来ないなどさまざまな事情があり、『うれしい』という反応がある」と話す。配信はネット環境が整っていればどこでも見られるため、日本のアーティストの海外ファンが「リアルタイムで日本のファンと一緒にみられてすごくうれしい」という反応があるという。

客席という固定された場所から舞台を見るリアルイベントに比べ、配信ではさまざまな角度からの映像を提供できる。アーティストの間近や真上から撮影したり、楽屋の様子を紹介することも可能だ。ローレン氏は「デジタルイベントで最近よくあるのは、会場の真ん中にステージがあってその周囲をカメラが回っているというものです。コンサートのDVDの撮り方というより、音楽PVの撮影で、リアルイベントではなかなかできない体験を提供できます」と説明する。

ネットの特徴の一つである双方向性を生かし、チャット機能が付いているイベントではアーティストやほかの観客との一体感も醸成できる。「リアルとデジタルのイベントのどっちがいいということではなく、体験できるものが違うと感じている」

新たな表現も可能に

もちろんリスクもある。ある生配信のイベントでは、すべての準備が整っていたが、収録している会場が停電に見舞われたこともあったという。ネットの状況によっては、視聴環境にも不都合が出てくる。

ローレン氏は「今までやっていないし、リスクがあるからと、配信がちょっと怖いと感じているアーティストや主催者はいると思います。逆に『今までできなかった表現ができる』と配信を積極的に行っているアーティストも多くいます」と話す。

例えば、視聴者のコメントに対して主催者がイベント中に回答したり、事前に質問を集めておいて、それに応じた話をしたり…。デジタルの特徴の一つである双方向性を活用し、アーティストとファンの交流が行われているという。

デジタル化による変革

コロナ禍の中で配信への動きが強まったが、事態が沈静化して、リアルイベントがこれまでと同じように開催できるようになった後にはどうなるのか。


ローレン氏は「イベントの会場に行きたい人には入場券、家で見たい人には配信券を販売するというハイブリッドイベントが増えると思います」と予測する。すでに、入場チケットと配信チケット、入場券にイベントのアーカイブ映像を見られる権利をつけた販売を行っているアーティストがいると説明する。

電子チケットの普及によって、イベントのデジタル化の進行も進むという。「以前は事前と当日券の販売だけだったが、アーカイブ映像があることで、主催者はイベント終了後もチケットを販売できるようになる。実際に会場で見ているファンが『いいな』と思ったら投げ銭をしたり、イベントが終わったらアーティストが感謝のメッセージ動画を送るということもできるようになります」

音楽市場で配信サービスの存在感が増しているように、イベントもデジタル化とともに変革していくという。ローレン氏は「CDの時代と違って、(音楽配信サービスの)Spotify(スポティファイ)などで世界中ですぐに音楽を聴けるようになった。それは音源の世界での流れだったが、イベントも全世界で参加できるというように変わってくるのではないか」と予想した。

Thursday, March 25, 2021